はじめに
某都市にある当施設には、毎日のようにさまざまな背景を持つ方が相談に訪れます。
「生活に困っている」「仕事が見つからない」「家を失いそう」——その声はひとつひとつ違いますが、共通しているのは「助けてほしい」という気持ちです。
今日は、そんな中で出会った30代女性の相談について、私自身の心に残ったことを書いておきたいと思います。
一本の電話から始まった
その日の午後、施設の相談電話が鳴りました。
女性の声でした。ゆっくりとした口調で、「相談したいことがあるんですが・・・・」と。
声だけでは、深刻な状況には聞こえませんでしたが、その言葉の裏にある“迷い”のようなものは、すぐに伝わってきました。
私の施設は男性専用ですので、女性の相談者には関連施設をご案内する形になりますが、まずは直接話を聞こうと、彼女の指定した待ち合わせ場所まで車で向かうことにしました。
“普通の子”に見える彼女
約束の時間に現れた彼女は、ごく普通の30代女性でした。
髪も整っていて、服装も清潔感があり、ぱっと見ただけでは「困っている」という印象はほとんどありませんでした。
ですが、車内での簡単な聞き取りの中で、彼女の過去と現状を聞くことになります。
彼女の“生活手段”
「ずっと風俗で働いてたんです。今はやってませんけど。」
そう言ったあと、少し笑いながら続けました。
「最近は相席居酒屋でご飯食べてます。食事ついてるし、タダで済むこともあるんで」
さらに、マッチングアプリも利用していて、知り合った男性と会うことで数千円の日銭を稼いでいたそうです。
「体は売ってないです」と彼女は強調しましたが、正直、それは“紙一重の世界”です。
彼女のように、ギリギリのところで生活をつないでいる女性たちは、私たちが想像する以上に多いのかもしれません。
所持金はほとんどゼロ
「今、所持金ってどれくらいありますか?」と尋ねると、「小銭が少しだけ」との返答。
財布の中には数百円程度。
もう今日、夜を越すことさえ不安な状況でした。
それでも彼女は、自分の状況を淡々と話し続けました。
取り乱すこともなく、泣き出すわけでもなく、ただ“当たり前のように”。
その姿が、かえって胸に刺さりました。
私の中に残った気持ち
彼女の話を聞きながら、私はただ一つの思いにとらわれていました。
「まだ若いのに、こんな子がいるんだな」と。
この社会の中に、こういう形でしか生活をつなげない人がいる。
そして、それが表に出ることはほとんどない。
彼女のような存在は、社会の“はじっこ”に追いやられて、見えなくなっているのだと思います。
とりあえず“今日、寝る場所”を確保
幸い、女性の受け入れが可能な関連施設へ紹介して受け入れてもらうことができました。
今日、この空の下で野宿しなくても済む。
それだけで、どれだけ違うか。
施設のスタッフに事情を引き継いだ後、私は帰りの道中しばらく車を運転しながら考えていました。
「この子が、明日を安心して迎えられる日が来るだろうか」
「次に電話をくれるのは、また違う“普通の若者”かもしれない」と。
その後——そして、彼女の1年後
あの日、彼女は無事に関連施設へと入所しました。
連絡先を交換することはありませんでしたが、時おり施設を通じて近況が耳に入ることもありました。
そして、あれから一年——
彼女は、マッチングアプリで出会ったその日限りの男性の子どもを身ごもったそうです。
誰のせいとも言い切れない現実。
でも、あの日彼女が話してくれた「ここまで生きてきたこと」が、その結果へとつながったのだとしたら。
私たちは、どこで、どのように“支える”ということを考えていくべきなのか——
あらためて、問い直さずにはいられません。
最後に
相席居酒屋やマッチングアプリを“生活手段”として使わざるを得ない人たちがいます。
それは決して「楽をしている」わけではありません。
「そこしか頼るものがなかった」という、苦渋の選択の末です。
私たちにできることは限られています。
でも、「今ここにいる人をどうするか」には、少なくとも向き合う責任があると私は思っています。
そしてこうした現実を、少しでも多くの人に知ってもらえたらと願いながら、今日もこうして記事を書いています。
※当ホームページに記載されている内容は実際に管理人が体験した経験談ではありますが、地域により同じ手法が通用しないことがあります。実際に私が施設長をしている無料低額宿泊所がある都市でも、区が違えば対応も違うことが多々あります。知的好奇心を満たす読み物としてご理解頂きますようお願い申し上げます。
生活保護な人たち 管理人